2145559 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

新英語教育研究会神奈川支部HP

新英語教育研究会神奈川支部HP

★08江利川春雄さん:経団連の圧力+教育史

■新英語教育研究会関東ブロック研究集会2008 報告   
期 日:2008年1月5日(土)午後1時~6日(日)午後12時30分
会 場:オーシャンリゾートホテル「マホロバ・マインズ三浦」ANNEX(別館)
神奈川県三浦市南下浦町上宮田3231 046-889-8900

●記念講演(13:30~15:30)
「日本の英語教育を問いなおす―歴史から学ぶ・未来を拓く」
     講師:江利川春雄さん(和歌山大学教授)
 生徒も教員も「評価」で輪切りにされ、弱者を切り捨てる「格差社会」を肌身で感じる世知辛い昨今、英語教育を取り囲む情勢をわかりやすく解説してくださいました。アンケート用紙にあったABCDの評価欄をご覧になって、江利川先生は御自身の講演を4段階で評価されること自体に苦笑される場面もありました(神奈川支部には他意はなかったのですが…)。100年前の明治時代に全国的に小学校に英語を導入しようとして失敗した同じ轍を踏みかねないと警鐘を鳴らす「英語教育を歴史的に見るアプローチ」、そして、実践的コミュニケーションが重視される理由は経団連が政治献金で政府をコントロールしているからであり、それは経団連のHPで政党別の『2007年度政策評価』で一目瞭然だという「英語教育を政策的に見るアプローチ」…、この2つのアプローチでパッと明かりがともるように私たちを啓蒙してくださった講演でした。競争ではなく共生・協同を基調としたヒューマンな英語教育につながる「学びの共同体」を拡大していきたいという気持ちに参加者もなったことと思います。ご講演ありがとうございました。

(1)はじめに
・江利川先生の呼びかけ:競争と格差拡大。日本の外国語教育政策は、多くの教育弱者を切り捨てる方針に転換しました。誰が何のためにこうした方針を進めているのでしょうか。英語教育の「いま」を問い直しましょう。学力保障をすべての子どもたちに。教え子を戦場に送らないために、事態の切実さを再認識したいと思います。歴史は知恵の宝庫。先輩たちの歴史的な足跡をたどることで、現状を打開するヒントを学びとりましょう。学びの共同体創り。未来を拓くために、協同学習の豊かな可能性と取り組みの現状を知り、元気をもらいましょう。
・プロフィール:和歌山大学教育学部教授・教育学博士。専門は英語教育学と英語教育史で、現在は和歌山英語教育研究会会長、日本英語教育史学会副会長、神戸英語教育学会副会長、中部地区英語教育学会運営委員など。大修館書店の雑誌『英語教育』で英語教育時評をリレー連載中。『新英語教育』2004年10月号~2005年9月号に「英語教育の歴史から学ぶ」を12回連載(この2つの連載をまとめた本を今年は出版されるご予定。まずは雑誌『新英語教育』のバックナンバーでお読み下さい)
・著書(共著を含む)
『近代日本の英語科教育史』東信堂、2006
『英語教科書の歴史的研究』辞游社、2004
『コミュニケーションのための英語自己表現』金星堂、2004
『コミュニケーションのための基礎英作文』金星堂、2000
『英語科授業学の今日的課題』金星堂、1997『英語科授業学の諸相』三省堂、1993     ほか論文多数

(2)要旨
1)競争と格差拡大の教育政策=英語はその最先端
   ・新自由主義による教育改革のねらい
   ・生徒と教員の疲弊
   ・教え子を戦場に送らないために学力保障を!
2)歴史は知恵の宝庫。先輩たちの足跡から現状を打開するヒントを学ぶ
3)競争ではなく「共生・協同」を基調としたヒューマンな英語教育を!
   =『学びの共同体』づくり(協同学習)の全国的な拡大

(3)政策的に見るアプローチ:競争と格差拡大の教育政策=英語はその最先端
 ●英語が使える日本人育成構想の矛盾と破綻:「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(2003~07、2002は戦略構想)は英語エリートの育成策。
   ・中学の英語を週3時間に削減(=公教育の切り捨て)。
   ・グローバル企業戦士を視野に入れた「専門分野に必要な英語力や国際社会に活躍する人材などに求められる英語力」と「国民全体に求められる英語力」と2つに分割し、公教育の目標に格差・差別を持ち込んでいる。
   ・到達度をはかるのに英検という外部試験を基準(中学3年で3級。校卒業時に準2~2級)としている点が不当=「中2で英検4級に800円を払った。義務教育なのになぜ払うのかと思った」
   ・語彙数が学習指導要領と英検に大きな差があり、不整合が生じてる。
   指導要領では中3で900語、中学と高校で2700語としているが、
   英検3級は2100語、2級は5100語。
   2006年の取得率は3級19%、準2級10%という状況。
 ●教育方針の司令塔は財界と大企業=政治献金でコントロール
 ★経団連のHPで「2007年政策評価 自由民主党」を見れば一目瞭然=[公徳心]についての評価がCからBにアップしている。これは「学校選択制の導入」(=教育の場に競争を持ち込む)を実施したことへの評価である。政治献金によるコントロールは、経団連→政府→文科省→教育委員会→主幹という流れになっている。

 (1) 2000年3月の経団連「グローバル化時代の人材育成について」は2002年の「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」にそのまま引き継がれている。経団連の主張する「英会話を重視した英語教育」「小学校段階から英語教育を実施」「センター試験でリスニングテスト実施」などは、戦略構想において「実践的コミュニケーション能力の育成」「小学校の英会話活動を支援」「センター試験でリスニングテスト導入」のようにそのまま引き継がれていて、教育基本法が禁止する「不当な支配」と言える[水野(2007)を江利川が改変した表による]。
(2) 政府の2002年6月のいわゆる「骨太の改革」(「経済財政運営と構造改革の基本方針」)の第2部経済活性化計画で「文部科学省は『英語が使える日本人』の育成をめざし平成14年度中に英語教育の改善のための行動計画をとりまとめる。平成15年度から外国人の優秀な外国語指導助手の正規教員等への採用を促進する」から02年7月戦略構想、03年3月行動計画へと続き、03年3月中央教育審議会「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(答申)」では教員の資質の向上を図るために「教員に対する評価の実施」「不適格な教員に対する厳格な対応」が盛り込まれている。
   ●ゆとり教育のねらい=公教育の切り捨て+エリート教育
   ・2000年7月教育課程審議会会長の三浦朱門の発言「できん者はできままでけっこう。(中略) せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです」(斎藤貴男『教育界買うと新自由主義』2004)
   =一般の公立学校は教科を3割カット、考える力や知恵を与えない。無抵抗な賃金労働力として働かせ、食えなくなったら戦地へ送り込む…。
   ●恥ずべき教育予算
   ・国家予算に占める教育費1975年度12.4%から2002年度小泉内閣で8.2%、2006年6.6%へ。国民総生産に占める教育機関への公的支出の比率は30カ国中、日本が最下位(上位はアイスランド、フィンランド、米、仏、英、伊)。
   ・政府予算の教材費を土木工事費などに流用する自治体が多数あるのが現実(文科省のKさんの情報「東京は大丈夫だが…」)。
   ・国立大予算1%カット(大学で欠員が出ても補充しない状況)
   ●「学力低下」批判を利用し、学力向上の名のもとに「エリート育成」を加速化
   =SELHi、学力向上フロンティアスクール(2003-05)、習熟度別、公立中高一貫校など。
   ・習熟度別は欧米で破綻済み(学力を底上げせず、学力格差を拡大させる)。国際学力比較テスト(PISA)の1位フィンランド以下8位までの国では習熟度別を廃止している。[佐藤学『習熟度別指導の何が問題か』]
   ・文科省の学力調査の結果、全国小中学生45万人で習熟度別や少人数指導を受けたかどうかの成績の差がなかった。(朝日夕刊2005.4.23)
   ●生徒たちに学力保障を! 低学力層の人為的創出を食い止めよう!
   =自立的に学び、政府や経営者の「偽」にだまされない主権者を育てよう
   ・週3時間の授業で英語が分からない、嫌いだという中学生が増加。
   ・学力格差の拡大と固定化。
   競争が激しいという実感、努力しても報われないという虚無感の蔓延。
   ・戦争を遂行するには格差社会が不可欠=アメリカでは低学歴で就職先のない貧困層やマイノリティの若者を兵士としてイラク戦争に動員。
   ●教師に対する圧力:過労死(英語教員の7割が過労死線上)、リストラ(指導力不足教員キャンペーン)、分断(副校長、主幹、指導教諭を新設。査定による給与格差)

(4)歴史的に見るアプローチ
  歴史は知恵の宝庫。先輩たちの足跡から現状を打開するヒントを学ぶ
   ・今年はフェートン号事件に始まる日本の英語教育200周年! 
   (1) 小学校英語
   ・議論は明治期に尽くされていた。明治17年(1884年)に「全国小学校に英語科を創設 だが、先生が英語を知らず、英語教師を雇う金もない」という記事がある。
   ・岡倉由三郎『英語教育』(1911、明44)が「外国語の学習を小学校から始めるのは良くない。後になって矯正するのが甚だ困難」と断じている。
   ★江利川先生の一言「免許のない医者に子どもをあずける親がいますか!」(英語の指導の免許のない小学校の先生が英語を教えていいのか…)
   (2) 少人数学級
   1928年(昭和3)に始めた「湘南プラン」(神奈川県立湘南中学で英語のクラスを2分割し少人数指導)は1939年に岡倉賞を受賞。成功の秘訣は教員の同僚性(collegiality)にあり=功名心なく、教員同士が助け合い。

(5)ヒューマンな英語教育
   ●広がる協同学習と「学びの共同体」づくり
   ・江利川先生から一言「かなり共感している(が、全面的ではない)」
   ・「学びの共同体」を推進している小学校は1500校以上、中学校は全国でで06年度に300校、07年度に1000校以上に、韓国や中国でも急増(佐藤2006)。
   ・学校改革デザイン:小グループによる協同的な学びの導入、教科や教室の枠を越えて学年の教師集団で学びを実現、授業の事例研究を学校の中核にして会議や雑用を削減、参観・授業者批評ではなく「生徒の学びの様子を議論」
   ・「教えることは学ぶこと」=協同学習の効果は心理学の分野で実証されている。記憶の定着度が「聞く」だけだと20%しか残らないのに対し、協同学習が前提とする、生徒同士の教え合い、学び合いを通じて「聞いた内容を人に話す」行為があると記憶が70%、「書いた内容を書き取り、人に話す」と90%残ると言われている。
   ●協同学習を取り入れた、ヒューマンな英語教育の実践例(DVDで紹介)
   ・田尻吾郎先生の授業:範囲を事前に聞いてある教科書本文を先生が読み上げ、最後の一節を書き取る。終わった生徒が

先生にチェックをもらったらhelperやadvisorの名札をもらって他の生徒にアドバイスする、
   ・中嶋洋一先生の授業:NHKの「わくわく授業」で放映したもの。まず目標設定をする「3週間後にトライアングルディスカッション(3人で3分会話を継続する)」。生徒たちは授業開始直後、先生が来る前にペア学習(=英語が苦手な生徒がペアリーダーを選んで、その人に教えてもらう)を5分間している。「いいたいことがあるが単語が出てこない」という生徒に先生は「知っている単語を使って話すように」と指示。またペアリーダーを廊下に呼び出し、アドバイス。パートナーからの悩みを事前に手紙に書かせ、先生は読んでおり「ペースをゆっくりしてあげてください」「『もう一回説明してみて』と確認させること」と先生が指示し、ペアリーダーはパートナーに「ここのところ、もう一度」と先生のアドバイス通りにやっていた。
   ・和歌山大学の学生たちが紙芝居で桃太郎に取り組んだ
   ・海難高校ではケネディー暗殺の場面を寸劇で表現した

(6)参考文献
   奥野久(2007)『日本の言語政策と英語教育』三友社、など
                                  
 


© Rakuten Group, Inc.